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餅搗(もちつ)き
餅搗きは多く12月28日に行います。何日でなければならないという決まりがあるわけではありませんので、29日に搗く人もあります。一般に29日に搗く餅は「九もち」といって「苦もち」に通ずるので嫌(きら)いますが、「二九もち」で「福持ち」に通ずるといって、逆に好む人もあります。また大晦日(おおみそか)に搗くことは「一夜もち」といって嫌います。だから、普通には25日ごろから28日までの都合のよい日に搗きます。
餅搗きの朝は家族みんな暗いうちに起き、大釜(かま)に仕掛けた蒸籠(せいろ)で、前日から水に浸してあるもち米などを蒸(む)しました。蒸したものを臼(うす)に移したときに漂(ただよ)う香ばしいかおりは子供たちの心をうきうきとさせました。臼からもち米などが飛び出さないように最初は杵(きね)で軽く捏(こ)ねてから、男が力いっぱい杵を振り上げ、女が調子を合わせて手返しをします。餅の出来上がりは、搗き方や手返しの水の多少などによって微妙な差異を生じました。
最初に搗いた餅で、まず「大鏡餅」を作り、大きく丸めた餅を2つ重ねるようにします。次いで年神棚や神棚に供える丸い餅を必要な数だけ作ります。次に作るのが雑煮用の餅です。これも丸い餅が正しいのですが、四角な餅にするところもあります。これが終わると、普段食べるためにのし餅にして冷まし、後刻四角に切って切餅を作ります。昔は、縁起ものの餅を搗き終わると、後は自由で、黍(きび)餅や粟(あわ)餅、豆餅や柿の皮を入れたものなどを搗きました。
餅搗きの臼は、その形から「立ち臼」といいます。昔は、多く樫(カシ)、栗などの堅木(かなぎ)の大木をくりぬいて造りました。石の臼を用いるようになったのは大正時代になってからです。杵は横杵で、これもなるべく堅い木に柄を付けたものです。
電動の餅搗き機が普及した現在は、昔ながらの手順と方法で餅を搗く家庭は少なくなりました。スーパーストアなどから出来上がった餅を購入する家庭も多くなり、「九もち」であろうと「一夜もち」であろうと気にしない人が多くなってきました。昔、ある地方で、餅搗きのときに使う大釜の火を新しく火打石で切り、新しい藁(わら)を敷いて塩をまき、その上に臼を据(す)え、清めることを忘れなかったことを思うと隔世の感があります。